なぜ?をどんどん掘り下げよう
今回は、10代のノンフィクション読書を応援することをコンセプトに、2021年に刊行されたばかりの「ちくまQブックス」からの本を紹介します。
カラフルな表紙にキャッチ―なタイトル、どれも100ページ程度で、図版やイラストが読み進めるのを助けてくれます。それでいて内容はぐっと本格的ですから、文学ではない読書の導入として手に取ってみてほしいシリーズです。
身近な「なぜ?」(Question)がスタート地点。知りたいに答えます。
正解することよりも、探究(Quest)することの大切さを伝えます。
なんで、どうして?と思ったとき、どのようにして自分の知りたい答えにたどり着こうとするでしょうか。今、子供たちに問いかけるとおそらく多くの子がネットで調べると言うのではないかと思います。子どもたちの新しいデバイスへの対応力はすごいですよね。タブレットを使いこなし、なんでも検索すればわかるよ、と得意げに話してくれます。
あふれる情報から必要なものを選び取る力を育むために
大人も子どもも、一度便利さを知ってしまうとそちらに流れてしまいがちですが、インターネットで検索したときに得られるのは「答え」であり、その過程、たどり着くまでの思考の跡は示されていません。
あふれる情報から必要なものを選び取る力を育てるためにも、ちょうど良い負荷で考えるトレーニングをしてほしい。深く考えることの楽しみを味わってほしいと思い、シリーズの中から中学受験を意識した1冊を取り上げました。
入試最頻出作家、稲垣栄洋さんの入門書
100ページに満たない薄い本でありながら、植物の進化から種の多様性まで、わたしたちの生きる世界は美しさと不思議にあふれているのだと気付かせてくれます。
単子葉植物の特徴や植物の進化の過程がサッカーやファーストフード、人間関係に例えられていて、専門用語に抵抗がある人でもすいすいと読めてしまうと思います。理科でつまずく前に出会いたかった!という声も聞こえてきそうです。
稲垣さんといえば、ここ数年の中学入試国語においては最頻出の作家さんといってもよいくらいですね。
学校側がこれだけ取り上げるというのは、受験生である小学生にこの文章を通して知っておいてほしい考え方、視点があるからこそです。
新書をぐいぐいと読むほど本が好きではない、でも稲垣さんの植物の事例を通して語られる不思議の数々、植物と人間を比べることで考えさせられる人間のあり方はぜひ触れておきたい、と思ったときに、ちくまQブックスのこの本はぴったりです。
次に読んでほしい本はどんな本?
ちくまQブックスには、「次に読んで欲しい本」というコーナーがあります。
載っているのは、本文を読んだ後に、へぇこの分野面白いなぁと思ったとき、その本止まりにはならず次々と好奇心、知りたい欲を満たしてくれる本たちです。著者の他の著書が紹介されていることもありますし、同じテーマでもこんな切り口があるかと思うようなつながりの本がでてくることもあります。
本の紹介の代わりに掲載された、著者からの素敵なメッセージ
先ほど紹介した、稲垣栄洋さんの『植物たちのフシギすぎる進化』のこのコーナーはちょっと変わっています。本が一冊も紹介されない代わりに、稲垣さんからのメッセージが載っているのです。以下はその一部分です。
「この本で紹介したように、生物は「多様性」を重んじます。その多様性は、私たちが「個性」と呼ぶものです。誰かが面白いと思っても、他の誰かは面白いと思わない、それが個性です。それが多様性です」
「皆さんにとって面白くない本もあるでしょう。しかし中には、皆さんにとって大切な本もあるはずです。だからこそ皆さんには、皆さん自身の力で、そんな本を探してほしいのです。そして大切な本に出会って欲しいのです。」
素敵な言葉ですよね。稲垣さんに限らず、それぞれの著者から10代の読者へのメッセージは、温かく、熱量たっぷりで届けられます。学ぶことが自分の新しい世界の広がりにつながるということを感じてほしいなと思います。