重松清さんの新刊
今回紹介するのは、昨年末に出版された重松清さんの短編集です。
重松清さんといえば、中学入試で良く取り上げられる作家さんという印象が強いですよね。おそらく中学受験生であれば、塾のテキストや模試などで一度は出会っているのではないでしょうか。
こちらの本が出たのは12月でしたので、2022年度の中学入試の問題では見かけませんでしたが、来年度はどこかの学校で見られるのではないかなと予想しています。
わからないことを考えること
この世界を、ずんずん歩いていくために。“
ここ数年、社会が目まぐるしく変化しています。1年後にどんな世の中になっているか、大人でもわかりません。わからない、というのは不安になる言葉ですよね。
一言で簡単に表せない気持ちの描写
「ぼくらのマスクの夏」という、コロナ禍の世相を反映した物語があります。主人公は少年野球を続けてきた小学6年生の男の子。前大会のリベンジを誓った春の大会も、最後の望みをかけた夏の大会も中止になり、大人たちからかけられる言葉を「わかってる、わかってる、わかってる……から」と受け止めながらもこころの中にモヤモヤが溜まっていきます。
重松さんの本にはそういった「モヤモヤした気持ち」がよく出てきます。登場人物たちと同じ目線で読み進めるうちに、今の社会で正しいとされているものについても、本当にそれでいいの?と問いかけられているような気がします。
そして、今起きている出来事を子ども目線で見つめるストーリーは、大人と子どもで受け止め方が違います。ぜひ親子で読んで気持ちをシェアしてみてほしいです。何年後かに改めて読んだときに、あぁこんなこともあったねと、過ぎたこととして振り返ることができていればと願わずにはいられません。
頭で、心で考えてみる
本の中では小学生たちが頭で、心で必死で考えています。
「頭でも、心でも、わからない」――「タケオの遠回り」より
自分だったらどう考えるかな、頭ではこうすべきとわかっているけど本当にその行動がとれるかな、と自分と向き合う時間を取りたくなる本です。日々を過ごしていく中で、考えることを放棄しない大人でいたい、子どもの心に寄り添える大人でいたいと心から思いました。
子どもたちの柔らかな心にはどのように届くのでしょうか。ゆっくりと時間をかけて読んでほしい1冊です。
重松清さんをもっと
最後に、たくさんの既刊の本の中からおすすめを挙げておきます。重松さんの作風はほんとうに多様で、今回紹介したような子どもを主人公に据えたものばかりではありません。大人の世界に踏み込んだものも多いので、テーマ、内容が子どもの年齢に適しているかどうかは大人が見てあげてほしいところです。
まだ読んだことがない方は、このあたりから手に取っていただくと良いのではないでしょうか。