秋に静かなお話を
9月も後半に入りました。夏休みも終わり、ようやくリズムが戻ってきたころでしょうか。小学校の夏休みの宿題といえば自由研究、そして読書感想文です。
今回は、今年度の青少年読書感想文全国コンクールの課題図書の中からの一冊、大谷美和子さんの『りんごの木を植えて』を取り上げました。
おじいちゃんと過ごす1年半の日々が、素敵な挿絵を添えて丁寧に書かれています。
りんごの木を植えること
『りんごの木を植えて』というタイトルは、「たとえあした、世界が滅亡しようともきょうわたしはりんごの木を植える」という16世紀のドイツ神学者、マルチン・ルターの言葉から取ったものです。この言葉をみずほに教えてくれたのは、大好きなおじいちゃんでした。
命が終わっても全部終わりではないのではないか、生きる意味とは何なのか、最後まで希望を持って生きること……おじいちゃんの話をわかったような、わからないような、と受け止めるみずほですが、おじいちゃんと暮らす毎日に、この言葉の意味をかみしめていきます。
文章から感じ取れる季節の移り変わり
文章から感じる季節の移り変わりもとても綺麗です。枯木立を見て「花も葉もない、はだかの木は、いさぎよいまでにうつくしいなあ」とつぶやくおじいちゃん。秋の場面の「黄金色にかがやく棚田をぬうように赤いヒガンバナ」という描写からは、キラキラとした光と鮮やかな赤色が目に浮かびます。
死というものに向き合う児童書の中でも重すぎず、穏やかに心に語りかけてくれる良書だと感じました。心静かに読みたい1冊です。
読書感想文の楽しみ方
この本との出会いは、夏の初めに、『作家・小川糸さんと考える「読書感想文」の楽しみ方』というトークセッションに参加したことでした。小川さんはデビュー作「食堂かたつむり」がベストセラーとして有名ですが、子どものころから「読書感想文を書くことが楽しみだった」とのこと。小川さんが中学生の時に全国コンクールで受賞した作文を元に、読んだあとの気持ちを言葉にすることの楽しみを語ってくださいました。
編集者のつもりで客観的に読む
その中で印象的だったのが、「編集の時間をたっぷり取って」という言葉。書いたものを読み返し、編集者のつもりで客観的に読むことが大切だと何度もお話されていました。まだ小学生だと、「客観的に」というところが難しいかもしれません。そんなときは傍にいる大人がこれってどういうこと?似たような経験あったんじゃない?などと声掛けしてあげることで、視点が広がるのではないでしょうか。
何度でも読むことが苦痛でない本を選ぶ
そして、何度でも読むことが苦痛でない本を選ぶこと。たしかにさらっと一度読んだだけで、原稿用紙何枚もの感想がでてくるわけがありませんよね。この本のように、課題図書だったから巡り合ったという良い出会いもありますが、読んだ本の中から感想文を書きたい本を探す、そんなイメージが理想的ということでした。子どもたちにとっても、感想文を書くという経験が言葉で表現することの楽しさにつながればと思います。