等身大の小学生がここにいます
今回紹介するのは、2022年6月に出版されたいとうみくさんの『ちいさな宇宙の扉のまえで 続・糸子の体重計』という本です。10年前に出版され、同じ主人公を据えた『糸子の体重計』という本の続編にあたります。
5年生と6年生はたった1学年しか違いませんし、学校の中では高学年と括られてしまいますが、やはり6年生の1年間は特別なもの。中学生になる期待と不安、小学生最後の特別な一年を主人公たちと一緒に味わってほしいと思います。
思い悩む姿に自分を重ねて
主人公は細島糸子、名前のイメージとは反対にちょっと太めで、おいしいものに目がないくいしいんぼう。周りからがさつ、デリカシーがない、といわれることもあるけれど、まっすぐすぎる言葉と行動で周りを巻き込んでいく愛され主人公です。5人の6年生の「わたし」「オレ」の目線でそれぞれの学校生活が語られていくのですが、お話が進むとともに季節も変わっていきます。
6年1組の教室にもたらされた変化
5人中、続編で新しく登場した日野恵は転校生として6年1組の教室に変化をもたらします。糸子と親友になりたい、とぐいぐいと距離を詰めてくるのですが、慣れない距離感に糸子は戸惑ってしまいます。今まで考えたことがなかったような友だちとの関係、距離について考えざるを得なくなります。
「今から捨てるクセをつけちゃダメ」
バレエで活躍するという自分の目標にストイックすぎる町田良子は、糸子たちとの関わりによって、少しずつ友だちの存在が大きくなってきます。修学旅行に行くか、バレエのオーディションを受けるかで迷う良子に、バレエの先生がかける言葉は「今から捨てるクセをつけちゃダメ」というもの。この本を読む子どもたちにも届いてほしい言葉です。
多様で豊かな心情描写
そんな良子に、友達以上の特別な感情を抱いているのが坂巻まみです。良子への一方通行の気持ちを持て余して悩みます。良子をこんなに独り占めしたいのも自分に自信がないからでは、と気づくまでの流れはとても自然です。この章のタイトルは「レインボー」、「好き」という気持ちにも種類があることに、この本で初めて出会う子もいるかもしれませんね。
唯一の男子として取り上げられるのが滝島径介ですが、クラスの中でも中心的存在のお調子者でありながら、家庭では母親と思いがすれ違い、辛い思いをしています。その思いから友だちへ嫉妬の気持ちをぶつけてしまう場面も。表には見せない心の描写が切なくなります。
そして卒業の季節
友だちとぶつかり、悩みながらも少しずつ大人になり、本の終わりとともに糸子たちは小学校を卒業します。最後に載せられた良子の答辞の一部を紹介します。
小さな学校、教室の中で、些細なことで言い合いになったり、わかってほしい思いを上手く伝えられなかったり、、楽しいことばかりではなかったからこその気づきです。この先の将来への希望を胸に、小学生みんながこんな思いで卒業できたらいいなと願います。
中学受験に向かって毎日頑張っている6年生はとても大人びてみえるけれど、たったの12歳です。子どもたちはこの本の中に、これは自分だと思えるような誰か、を見つけられるはずです。
作者つながりで広がる読書
今回は6年生を主役にした本ではありますが、いとうみくさんの文章は、登場人物たちの抱える気持ちの描写がたっぷりあるので、糸子たちより年下の学年であってもぜひ読んでみてほしいです。
「重ねて読む」楽しみ:『かあちゃん取扱説明書』
あまり本を読み慣れていないようであれば、『かあちゃん取扱説明書』をおすすめします。日常の生活の中での親子関係がユーモアたっぷりに書かれており、出てくるお母さんに自分のお母さんをどこか重ねてしまうこと請け合いです。この「どこか重ねてしまう」というのは子どもが読書、とくに物語を近く感じるポイントだと思っています。ぼくと似てるなぁ、わたしだったらこうするなぁ、と共感し、重ねて読むことでよりその世界観を楽しむことができます。