ゴリラを知ることで、人間をよりよく理解する【読書で世界を広げよう】

ゴリラを知ることで人間をよりよく理解する

新しい年を迎え、大人も子どもも気持ち新たに色々なことに向き合える季節です。こちらのコラムでも、読んでくださる方それぞれに新しい世界が広がればと思い、今年もたくさんの本を紹介していきます。

今回取り上げるのは、京都大学の総長で、ゴリラやニホンザル研究の第一人者である山極寿一先生の本です。

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人間とは何か、どんな社会を目指していけば良いか

山極先生とゴリラとの出会いは40年以上前にもなります。現代社会の人間のコミュニケーションのあり方を考えるにあたり、「人間以外の生き物から現代の人間がどう映っているかを知ることによって、生き物としての人間のあり方を理解し直す必要があるのでは」と考え、ゴリラを知ることで人間をよりよく理解しようとします。

ゴリラは、チンパンジーとともに人間に一番近いといわれる霊長類です。人間に近いゴリラの社会を知ることで、人間とは何か、どんな社会を目指していけば良いのかを考える、そんな一冊です。

ゴリラの国へ「留学」してわかったこと


前半は、コンゴ民主共和国のカフジ山、ガボン共和国でのゴリラの調査での観察記録がつづられています。山極先生は、アフリカでのご自身のフィールドワークについて、ゴリラの国へ「留学」するという言葉を用いています。

ゴリラになりきり、同じ場所で生活するためにも、まずは森の民である地元の人々との信頼関係を築きます。そして、群れへ一人で入っていくことが許されると、朝から晩までゴリラについて歩き、音を出して「会話」をし、植物の食べ方や遊びを教わります。自分以外に人間が全くいないところで暮らす毎日は、まるで自分がゴリラになったような気になる、と書かれています。

ゴリラは正面から相手をみつめ、出会いを楽しむ

色々なエピソードが紹介される中で、ゴリラは正面から相手をみつめ、出会いを楽しむ、というのが印象的でした。人間は今の時代、顔を見ることなく容易にコミュニケーションを取ることができます。たとえばSNSにおいて顔が見えていたらしないであろう対応をしてしまう、これも便利さと引き換えの残念な弊害のように思います。

ゴリラのコミュニケーションの取り方、生き方を通して、人間が人間であることの意味を改めて考えさえられます。人間を表す「ホモサピエンス」という言葉は「賢い人」、という意味。霊長類の中でもその名を名乗るからには、自分達の社会がどうすればもっと良くなるのか、それぞれが考えていくことが望まれます。

中学入試の出典としても注目度は高い

ちなみに、同じ山極先生の本で、この本よりも前に出版された 『ゴリラからの警告「人間社会ここがおかしい」』は桜蔭中、 香蘭女学校中、淑徳与野中、 広尾学園中等、多くの中学入試の出典として扱われました。このようなテーマに対する学校の先生方の注目の高さもうかがえます。

エコツーリズムという考え方を知る

ところで、本書の第8章で語られる「エコツーリズム」は、未来の自然を守るためにできる取り組みの一つです。自然を対象にした少人数観光の一つで、自然資源を持続的に利用しながら、地元に経済効果をもたらすことを目的にしたものです。日本の例では、屋久島や知床半島、白神山地などで、手付かずの自然を満喫できる観光として知られてきています。

地元の美しい自然だけでなく、そこに住む人々の伝統的な暮らしを見せること自体も「観光資源」となるところがポイントです。自然と共に住む人々が、誇りを持って自分たちの文化を見せていくことで、無理のない形で自然を守ることができると期待されています。

本を通して新たに物事を知る

中学受験という切り口で見れば、過去問や塾の模試でも出会うことが増えてきた言葉の一つです。自然との共生を目指すための一つのキーワードとして、押さえておいてもよいのではないでしょうか。

こちらのエコツーリズムを含め、簡単ではないテーマですが、漢字にはルビがふられていますし、説明的文章に触れたことがないお子さんでも手に取りやすい1冊です。本を通して新しく物事を知る体験のきっかけになればと思います。

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