中学受験を終えた6年生に贈りたい一冊――『中高生のための文章読本』

受験を終えた6年生たちへ

今回は受験を終えて、中学生になろうとしている子どもたちへ贈りたい一冊を選びました。

タイトルは『中高生のための文章読本』。読む力をつけるノンフィクション選として、21編の良質な文章を少しずつお試し読みができる構成になっています。

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中学受験の国語は、塾のテストや入試問題を通して自分からは手に取らないような様々なジャンルの文章に向き合います。どんなに国語が嫌いで、苦手で、強制的にであっても膨大な数の文章に触れたことは大きな経験値になっているはずです。

本や文章を読むというのは、運動とはまた違う「体力」を使う作業だと思います。せっかく中学受験で鍛えてきたその力を、受験が終わったからといって全く使わずに衰えさせてしまうのはもったいないことです。

動いていなかったアンテナが様々な情報を捕まえるようになる

また、人間の心理効果の一つに、特定のことを意識したり、関心を持ったりすると、そのことに関する情報が自然と目に留まるようになるというものがありますよね。

本を読み、今まで見向きもしなかった情報に触れることで、動いていなかったアンテナが様々な情報を捕まえるようになるのです。物事を見る際の解像度があがり、頭の中でばらばらだった知識や概念のつながりを感じることもあるかもしれません。

 

色々な仕掛けで深い本の世界へ

この本には、ノンフィクションを読み慣れない子どもたちに向けて、より思考を深め、興味を広げるために色々な工夫がされています。

例えば、うっとうしくないくらいのいい塩梅で注釈や読み仮名がついているのは、自転車の補助輪のような役目になっているように感じますし、なんといっても一つの文章は多くて5ページです。

それぞれの文章の最後には「手引き」という問いかけが置かれています。国語の読解問題のように、本文に立ち戻って読み直すことで、読みを一層深める仕組みになっています。

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もっと知りたい気持ちに応える「読書の手引き」

今の時代は、興味のある分野を掘り下げようと思ったときに、すぐにレスポンスのあるインターネットに行きがちです。

でもそれは、本によってどれだけ深く、広く世界が広がるかを知らないからなのかもしれません。興味を持つ分野はそれぞれ異なると思いますが、本書の中でページをめくるごとに心地よい刺激を感じる文章が一つでもあればと思います。

そして『中高生のための文章読本』の中には、各章の最後の「もっと知りたい」という本の紹介や、巻末の「読書の手引き」という、もっと知りたいという気持ちが芽生えた瞬間を逃さないようにする仕掛けがあります。

本へのたどり着き方や本を通しての人とのつながり方などのアドバイスは、新しい読書体験の助けになるのではないでしょうか。

 

「読書は僕たちをグーグルマップにする」

本書の第8章では、苫野一徳さんが『未来のきみを変える読書術―なぜ本を読むのか?』(ちくまQブックス)をもとにやさしく書き下ろした文章が取り上げられます。

「だまされたと思ってとにかく大量の読書経験を積んでみてほしい」と語る苫野さんは、それによって得られる世界の見え方を「自分がグーグルマップになって」見下ろしたような気持ちになる、と例えています。入り組んだ迷路の全体像や、どの道をどう通れば臨む地点に到達できるかが見えてくる、と。

教養というクモの巣状のネットワーク、閃きの電流

また、同書の中で登場する、教養の大切さを伝えるための言葉、「クモの巣電流流し」というのもおもしろい例えだなと感じました。

頭の中に教養というクモの巣状のネットワークを張り巡らせることで、一筋の閃きの電流によって自分の中にあるあらゆる知識や思考が一つにまとまり、その先の思考や問題解決につながるということです。

人生の中で豊かな経験を、とはだれもが思うことですが、直接に体験できることはそれほど多くはありません。苫野さんは、直接に体験したことだけを元にして視野がせまくなりがちなところをうんと広げてくれるのが読書であると説いています。

 

「不知の知」の謙虚さを知ること

読書を積むことによって、自分がまだまだ知らないことがこんなにあるのだ、と気づけるかどうか。いわゆる「不知の知」という感覚を若いうちに持てるかどうか。それができるかどうかで、大人になってからの人生の向き合い方にも違いがありそうです。

今後、自我が発達していく多感な時期に、この本を通して評論、自然科学、思想、短歌、など幅広いジャンルのノンフィクションに出会い、思考の幅を広げてほしいと思います。

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