絵と言葉を通して広がる深い世界――林木林『二番目の悪者』

本選びは対象年齢にとらわれず幅広く

コラムを書くようになって、お子様への本選びのご相談をいただくことが多くなりました。先日は、子どもに好きなように選ばせると流行りものやシリーズものに偏りがちになってしまうとお悩みのご家庭がありました。

わたしは、それ自体は全く悪いことではなく、むしろ子どもが自ら手に取って読みたい本に出会えたというのはラッキーなことだと思います。しかし、子どもが楽に読めてしまう本というのは、今の自分の中にある語彙だけで意味が取れるものであることが多く、言葉の世界の広がりという部分では、少しもったいなく感じます。

ちょっと背伸びをして読む本にこそ、今まで出会ったことのない新しい表現や言葉が溢れているものです。自分の持っている言葉を土台にして、これはこういう意味かな、こういうときにこんな表現を使うんだ、とイメージを付けていくことができます。

ちょっと背伸びをして読む本にこそ、新たな出会いが溢れている

とはいえ、いきなりボリュームのある本を読みなさいと渡されても面食らってしまうでしょう。本の世界を広げる手段は色々ですが、やはり小学生の間は大人が与えてあげたものが中心になるように思います。まずは保護者の方々が選ぶ本のジャンルを今までと違う方向にグッと広げてみてはどうかと思い、1冊の絵本を紹介します。

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「二番目の悪者」

真っ赤な表紙とライオンが目を引くこちらの本は、動物たちの王国の物語です。

自分が王様になりたい金色のライオンは、王様候補である銀色のライオンの悪い噂を流します。銀のライオンの優しさを知っている町の者は初めのうちは信じようとはしません。しかし、このように意図的に流された悪評であっても、「火のないところに煙は立たないっていうから」と、いつしか国の中の「真実」として広まっていってしまいます。

噂を広げる動物たちに悪意はありませんし、良かれと思って話しているようなところもあります。また、銀のライオンは根も葉もない噂を流されてしまっても、苦笑いをしているだけ。「いい人」であればあるほど、事を大きくしないように、自分が我慢すればというような空気は今の世の中にもありますよね。

「二番目の悪者」の罪と向き合う経験をしてほしい

物語の中の動物たちは、噂が本当に正しいのかどうか、自分の目で確かめることをしません。一番悪いのはもちろん金色のライオンですが、題名の「二番目の悪者」の罪について、それぞれがストーリーに向き合い、読み終わった後に考えや感想をシェアしてほしい1冊です。

物語として聞けば、なんて愚かな話なのだろうと思いますが、昨今のインターネット、特にSNSを通して出所のわからない情報に振り回されがちなわたしたち人間の話とどこか重なるところがあるのではないでしょうか。2014年の出版から10年近くが経過した今もなお、考えさせられる絵本として注目されています。

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中学入試で取り上げられた絵本です

実は今回紹介した『二番目の悪者』は、港区にある芝中学校にて出題されたことのあるお話です(2016年度第1回入試)。絵本の初めから終わりまで、途中で略されることなく問題文になっていて、読んだだけでは絵本からの出題とはわかりません。
絵本というとどのような印象を受けるでしょうか。幼児期に読むものであると考えるご家庭も多いようで、小学生になったからもう絵本は読ませていないという話も聞きます。でも、絵本だから内容が易しいとは限りません。

入試問題は、問題を通してこの文章に触れてほしいという学校側の思いの表れでもあると考えます。この年の芝中の問題は問いを解くごとに読みが深まる仕掛けになっており、問題を解いた受験生は、自分の頭で考えることの大切さに向き合う数十分だったことと思います。

こちらのコラムをお読みになった方は、まずは絵本として絵と言葉の紡ぎ出す世界観を味わってみてくださいね。社会派のテーマでありながらも、庄野ナホコさんの優しさのある絵がその雰囲気を和らげてくれています。作者の林さんが紡いだ言葉のそばに絵が添えられることで、より言葉が深みを増してくるように感じることと思います。

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