「ロト」と聞いて思い浮かべるのは……「宝くじ」、「一攫千金」でしょうか?
では、「ロトクラシー」と言えば……聞きなれない言葉ですね。
ちなみに、民主主義を「デモクラシー」と言います。歴史分野で「大正デモクラシー」を学ぶ、あの「デモクラシー」です。
2023年 頌栄女子学院中学 第2回入試問題(2月5日実施)
以下、2023年2月5日実施の頌栄女子学院中学の第2回入試問題を御紹介しましょう。
二重下線部(Y)について、近年、投票率の低さや政治家への不信感などから、民主主義国家における「民主主義の危機」が指摘されています。そこでこの十年ほど、政治学者の間で注目を集めてきたものに、選挙ではなく全国民の中からくじ引きで代表者を選ぶという、くじ引き民主主義(ロトクラシー)があります。それはいわば、くじ引き(ロト)で公職を割り当てていた古代アテネの民主政治(デモクラシー)に立ち戻ろうという議論でもあります。
- ①くじ引き民主主義が持つ長所・利点を以下のデータをもとに説明しなさい。
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- データ
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- 2000年から2009年までの自民党の衆議院議員の内訳をみると、その9割が男性、約35%が50代、約2割が官僚出身者だった。
同様のプロフィール(性別・年齢・職業)を持つ有権者は約5%のみである。
- 2000年から2009年までの自民党の衆議院議員の内訳をみると、その9割が男性、約35%が50代、約2割が官僚出身者だった。
(大問1-問9より一部抜粋)
当事者意識からさまざまな行動を起こす「くじ引き民主主義」
「くじ引き民主主義」は日本ではなじみの薄い考えですが、茨城県東海村、東京都杉並区や東京都武蔵野市、京都府長岡京市などでは無作為に選ばれた市民が「原子力発電所」や「気候変動」、「街の課題」などに関しての議論をおこなっています。こうした事例は、国内だけでも2005年以降に600件を超えるようです。
多様な視点からものごとをとらえられるだけではなく、参加者が議論をきっかけに身近な事柄、自分が暮らす自治体の諸問題を「自分ごと」として考えられるようになって(当事者意識)、さまざまな行動を起こすという利点もあるようです。
みなさん、ご存知でしたか。
海外においては、例えばフランス、アイルランドでは無作為に選ばれた市民によって国家政策の一部について議論が実施され、その結果が政策にも反映された事例も見られます。
例題の解答
今回の問題では、設問の参考資料として衆議院議員の構成員のデータが示されているので、これが「ヒント、解答の手がかり」になります(設問で与えられる数値情報は有力なヒントになることが多いです)。
よって、国民から見ればその構成員の属性が少数派になる国会議員と比較して、「多様な参加者」によって議論を「さまざまな視点から考えられる」点について述べるのが良いでしょう。
統一地方選挙と民主主義
2023年4月は、いわゆる「統一地方選挙」がおこなわれます。このコラムが掲載されるころには結果が判明していることでしょう。身近な政治に対する有権者の関心がどれほどあるのか、投票率が気になるところです。
統一地方選挙に関する朝日新聞の調査によると、立候補者が定数を上回らない、つまり無投票で当選者が決まってしまう選挙区が全体の37.1%も存在するようです。これは、有権者の投票する権利が奪われていることになります。「民主主義の危機」の一つと言えますね。
基本的人権を守るための権利「参政権」
選挙権は参政権の一つであり、参政権は「基本的人権を守るための権利」とも呼ばれ、日本国憲法における三大原則の一つである「基本的人権」に含まれるとても大切な権利です。
例えば、2022年7月におこなわれた参議院議員通常選挙の投票率は52.05%です。視点を変えると、これは約5,030万人が選挙を棄権したことを示しています。これだけ多くの人が投票をしない理由とは何なのでしょうか……。
民主主義のあり方、選挙のしくみ、有権者の意識などは2024年入試でも出題が狙われそうな内容ですね。日頃から自分なりの意見を考えておくと良いでしょう。
社会科とは「社会や世の中のしくみ、動き」を学ぶ科目である
社会科コラム「不易と流行」では、身近な話題に触れながら、近年の中学入試の社会科における入試傾向を、実際の問題を紹介しながらお伝えしていければと考えています。
「社会科」は私たちが暮らす「社会や世の中のしくみ、動き」を学ぶ科目です。皆さんに身近で興味、関心が広がる話題を提供していきます。ご期待ください。