先日、イネなどを育てる農園を営む方の「レンゲの田んぼが荒らされた」という悲痛な書き込みをSNSで目にしました。どうやら無許可で立ち入り、踏み荒らした人たちがいたようです。
人の所有地に断りもなく入ること自体が問題ですし、大切に育てていたレンゲを荒らすなど言語道断です。農園の方が不憫でなりません。
田んぼにレンゲを植える理由
今ではほとんど見られなくなりましたが、田植え前の田んぼにはレンゲ(標準和名は「ゲンゲ」)が一面に咲いていました。これは自生しているのではなく、ある目的によって種をまいて育てられたものなのです。
※自生…植物が人の手によらず、その地域に自然に生え育つこと。
では、なぜイネを育てる前の田んぼにわざわざレンゲを植えているのでしょうか。これにはきちんとした理由があるのです。
マメ科の植物
レンゲはマメ科の植物です。
他にも中学入試に問われるマメ科をチェックしておきましょう。
マメ科……エンドウ・ダイズ・ソラマメ・シロツメクサ・スイートピー など
マメ科の植物は離弁花(花弁が1枚ずつ取り外せる花)です。そして、5枚の花弁はチョウのような形になるので「蝶形花」とも呼ばれています。
根粒菌によってできるコブ
これらマメ科の植物を土から引き抜いてみると、何やら根に「コブ」のようなものがついていることに気付きます。実はこの「コブ」は根粒菌という微生物が入ってできたものです。
これにより、マメ科の植物は根粒菌がつくったアンモニアを供給してもらうため、やせた土地でも育つことができるのです。
これが田植え前の田んぼにレンゲを植える理由であり、「緑肥」と呼ばれる所以となっています。
念のために植物に必要な三大肥料を復習しておきましょう。
三大肥料……窒素(葉や茎)・リン酸(花や実)・カリウム(根)
農家の方の「レンゲの田んぼが荒らされた」という投稿は、土の養分が不足し、お米作りに支障が出てしまうということを憂慮してのものだったのです。
マメ科植物と根粒菌の関係
レンゲをはじめとする「マメ科植物」と「根粒菌」は、共存することでお互い利益を与えあっています。このような関係を相利共生と呼んでいます。有名なものではアリとアブラムシ(アリマキ)の関係です。アリはアブラムシの腹部の先から出る甘い汁をもらうために、アブラムシの天敵から保護しています。
クマノミとイソギンチャクの相利共生
また、映画「ファインディング・ニモ」に登場するクマノミも、イソギンチャクと相利共生の関係にあります(片利共生=クマノミだけに利益があるとする説もあります)。
※クマノミはホンソメワケベラとともに性転換する魚類としても有名です。その話はまたの機会にご紹介しましょう。
マメ科植物の花のつくり
チョウのような形をしているマメ科の花を見てみると、おしべもめしべも花弁に包まれているため見えません。しかし、みつを求めてやってきたミツバチなどの昆虫が花にとまると、下側の花弁(竜骨弁と翼弁)が押し下げられて、おしべとめしべが現れます。
レンゲは1本のめしべと10本のおしべ(9本は根元がくっついている)が束になっていて、先は曲がっています。
このつくりは
②めしべの柱頭に(昆虫によって運ばれてきた他の花の)花粉をつけること
の2点において受粉を効率よくおこなうのに適している考えられます。
虫媒花と風媒花
先述のレンゲの田んぼも荒らされていなければ、みつを集めて次から次へと花を移動するミツバチなどが飛んでいたことでしょう。彼らは知らず知らずのうちに花粉まみれになりながら、レンゲの受粉を手伝っていたのです。このように、昆虫によって花粉が運ばれる花を虫媒花といいます。
虫媒花の特徴をまとめておきましょう。
- 花のようす……大きくて目立つ(派手),においがある,みつが出る
- 花粉のようす…ベトベトしている,とげや毛がある
虫をおびき寄せるための花弁を持つ植物の多くが虫媒花です。花粉は虫につきやすいつくりになっています。
花粉が風に運ばれる花を風媒花といいます。こちらも併せて確認しておきましょう。
- 花のようす……小さくて目立たない(地味),においがない,みつは出ない
- 花粉のようす…小型で風に飛ばされやすい,大量につくられる
マツ,スギ,トウモロコシなどが風媒花です。花粉症の原因となるような植物は風媒花ですね。
実はそれって理科かもしれない
昔の人は「稲妻ひと光で稲が一寸伸びる」と言っていました。
雷の多い年はお米が豊作になると信じられていたからだそうです。一寸は3cmですから少し大げさではありますが、この言い伝えには科学的根拠があります。
さらに、雷をもたらす積乱雲は、イネの生育に必要な気温や日照の条件のときに発達しますし、雷とともに十分な雨を降らせますので、お米が豊作になるのも頷けます。
無関係に見えるものが結びつく
一見すると無意味/無関係に思える「田んぼのレンゲ」や「雷とイネの成長」も、実は理科で学習する知識や現象で結びつけることができ、意味を持つのだと分かります。
受験勉強だけにとどまらず、興味を持った「なぜ?」を考えたり調べたりして、様々な分野と関連/融合/深化させていくことで、さらに解像度の高い受験生になれるはずです。
次回の記事でも「もっと理科を勉強してみたい」と思えるような話題をご紹介する予定です。お楽しみに!