今回は歴史の話題です。
6月23日の持つ「特別な意味」
このコラムは6月末から7月初め頃にみなさんに読んでいただけると思いますが、この時期はまさに「梅雨」ですね。
雨が降った日の湿度の高さに気持ちが萎えることもしばしばですが、日本中が梅雨に入っているさなかの「6月23日」は特別な意味を持つ日です。
みなさんは御存じですか。小学5年生以下は知らない人が多いでしょうね。6年生ならば…わかる人もいるはずです。
2024年度から採用される小学校の検定教科書
そして、もう一つ。今年の3月下旬にあるニュースが報道されましたが、東京など日本のほとんどの地域ではあまり注目を集めませんでした。
実は、2024年度から採用される小学校の教科書に関する話題なのですが……みなさん、御存じですか。
沖縄県にまつわる二つのニュース
いまの2つの話題、実は共通点があります。それは…「沖縄県」です。
まずは、3月下旬に報道されたニュースを確認しましょう。
「琉球新報DIGITAL・2023年3月28日版」から抜粋してみます。
小学6年生が使用する社会の教科書では、検定に合格した3社3冊で取り上げられた「沖縄戦」の記述の中で、沖縄戦の最中に発生した「集団自決(強制集団死)」について旧日本軍から住民への命令(軍命)などの関与があったことを示す説明記述がなかった。いずれの出版社も、現行教科書での「集団自決」の関連での「軍命」「軍関与」に言及しておらず、従来方針を踏襲した形だ。
これを簡潔にまとめると、
「日本とアメリカなどとの間で起きた太平洋戦争の末期、日本で唯一の地上戦がおこなわれた沖縄において住民の集団自決があったが、住民の集団自決に軍がかかわったことを小学校6年生が使用する教科書では記述しない」ということです。
検定教科書に関する出版社からの回答
この報道に対して、教科書を出版した「東京書籍」「日本文教出版」「教育出版」の3社は次のように回答しています。同じく、「琉球新報DIGITAL・2023年3月28日版」から。
- 東京書籍
「発達段階を踏まえた上で、学習内容と照らし合わせて適切なものとなるように編集委員会で検討した」 - 日本文教出版
「小学生向けということで、事象をより掘り下げるべきかという判断があった」 - 教育出版
「発達段階を踏まえて理解できるように記述する場合は、それなりの紙幅が必要になる。総合的に判断して記述を見送った」
教材から削除された『はだしのゲン』
また、2023年は広島市の平和教育の教材として長年にわたって使われてきた、作者の体験をもとに原子爆弾の恐ろしさを伝える漫画『はだしのゲン』が、新年度の教材から削除されたことも大きな話題となりました。
みなさんはこれらの出来事について、どのような感想を持ちますか。
2023年 東京女学館中学校 第1回入試問題(2月1日実施)
こうした動きがある一方で、2023年入試での「沖縄戦」を扱った問題において、一歩踏み込んだ模範解答を示した学校がありましたので、ここで御紹介します。
2023年2月1日におこなわれた東京女学館中学校第1回目入試です。
大問2では沖縄県の新聞社である「沖縄タイムス」の紙面が紹介され、戦争に関するリード文を読ませたうえでの設問が並んでいます。
そのなかの一問です。
下線部⑤(注・沖縄戦で住民が犠牲になったこと)について、沖縄県民のぎせい者のなかには、集団で自決して亡くなった人もいました。図表2-2(注・比嘉富子『白旗の少女』講談社)は、アメリカ軍に投降して助かった少女の自伝です。同じ沖縄の戦場で、このように助かった人もいる一方で、どうして多くの人々が自決をしたのでしょうか。その理由を説明しなさい。
まさに、先の教科書で話題となった「沖縄戦での住民の集団自決」に関する内容です。
設問から読み取れる「ヒント」
設問からヒントを読み取ると以下のようになります。
- アメリカ軍に投降して助かった少女がいた。
- 一方で、集団自決によって亡くなった人々がいた。
- 上記2つから、「集団自決をした人々はアメリカ軍には投降しなかった」と考えられる。
- では、沖縄の人々は「なぜアメリカ軍に投降しなかったか」。
つまり、(4)の理由を考えることで正答が導けるということです。もちろん、沖縄戦をよく知っている人は解答を書くことができると思いますが、知らない人でも解答の手がかりをつかむ努力はしてほしいと思います。
例題の解答
さて、それでは中学校側の模範解答を確認してみましょう。
- 例1:アメリカ軍につかまるとひどい目にあわされると言われていた。
- 例2:敵の捕虜になるのは恥なので、つかまる前に自決しなさいと教えられていた。
一見すると見過ごしてしまいそうになりますが、2つの模範解答にある「~言われていた」と「~教えられていた」という表現からは、「沖縄の人々が誰かから言われていた(教えられていた)」ということが読み取れますね。
太平洋戦争における沖縄戦では10万人以上の住民が犠牲になったと言われていますが、戦闘に巻き込まれて亡くなった人以外に、こうした集団自決で命を落とした人たちがいることを知っておくべきでしょう。
なお、沖縄戦での集団自決と軍のかかわりに関しては否定的な意見も出されていますが、最高裁判所の判決としても「沖縄戦での集団自決には軍の関与を認める」判断がされています(2011年4月22日)。
沖縄に行く際は、歴史に触れられる場所にも足を運んでほしい
沖縄県は温暖な気候と自然の豊かさが人気で、日本有数の観光地としてもとくに知られています。みなさんのなかにも、沖縄県を訪れた経験を持つ人がいるでしょう。
そこで、沖縄県に行く機会があれば、観光で楽しむだけではなく琉球や沖縄県の歴史に触れられる場所にも足を運んでほしいと思います。
いまは再建中の首里城、沖縄各地で大きな存在感を示すアメリカ軍基地、そして沖縄戦と深くかかわる「ひめゆりの塔」や平和祈念公園にある「平和の礎」等々。
自分の目で確かめてみることは、きっと良い経験になると思います。
6月23日は何の日か――答え合わせ
さて、最後になりましたが、冒頭の「6月23日は何の日か」についての答え合わせです。
この日は、何と……みなさんもよく知っている「織田信長の誕生日」です!!
いやいや、ちょっと待て。
これも正しいのですが、6月23日は沖縄県の人々にとっては特別な一日である「慰霊の日」ですね。沖縄県の条例で定められており、県内で各種の行事が行われる一日です。
6月23日が沖縄戦犠牲者の霊を慰め世界の恒久平和を願う日であることを、私たちも覚えておきましょう。
世界から一刻も早く戦争がなくなると良いのですが……。