今回は中学入試で扱われたことのある短編小説のおすすめをいくつか紹介したいと思います。少ないページの中で話の起承転結がある短編は、出題する側としても扱いやすいため、よく取り上げられています。
紹介する中には、「読書が苦手でもこのくらいの分量なら読める」と思わせてくれるくらい短いものもあるはずです。お子さんに本を手渡す際に、「ちょっとここのところだけ読んでみて」など軽い感じで進めてもらうイメージです。
少ない分量でも良質な文章・多様な文体に触れてほしい
分量は少なめでも、良質な文章に触れることで、読み慣れることができますし、いろいろな文体に触れてほしいなと思います。
1冊全部を読もうなどと気合を入れなくともよいですし、その短編が楽しく、読めたならば、同じ本の他の章に進んでも良いと思います。
2022年に刊行された、小学生が主人公の2作品
まずは2022年に刊行された新しめの作品から、小学生が主人公のものを2作品紹介します。
窪美澄「星の隨に」(『夜に星を放つ』所収)
窪美澄さんの 『夜に星を放つ』 は、直木賞を受賞したことでも知られる作品ですが、星について絡めた5つの短編集のうち、今回は小学4年生の男の子が主人公となっている「星の隨に」をおすすめします。
2023年度は桐朋中や海城中で出題
2023年度の中学入試では桐朋中や海城中にて出題され、登場人物たちの心情を中心に設問が作られていました。
この本は作品ごとのストーリーが連動しているわけではないですし、主人公も大人の女性、高校生など、年代はバラバラなのですが、実は「星座」というモチーフでつながっているとのことです。そんなことを意識しながら他のお話も読み進めてみると楽しめるのではないかと思います。
瀬尾まいこ「夏の体温」(『夏の体温』所収)
次に紹介するのは瀬尾まいこさんの『夏の体温』です。
表題作「夏の体温」は、少年たち2人が入院中に共に過ごす数日間を描いたものですが、人と人との出会いは一期一会ということを強く感じさせられます。
こちらは、本書の帯に書かれたコピーです。一つの出会いがきっかけで、見える世界が、進んでいく道が変わることがあるというのは誰しも経験があるのではないでしょうか。
2023年度は鷗友学園女子中などで出題
2023年度は鷗友学園女子中をはじめ、複数の学校の入試問題として切り取られて使われました。塾の模試でも出題されており、会話をはじめとする様々な表現から心の動きを読み取ることが問題になっていました。
テンポの違いを楽しんで!――テンポが対照的な2作品
文章や文体にも音楽のようにテンポというものがあります。
スピード感のあるものや、ゆったりとゆらぎながら進むもの、リズミカルな感じなど、言葉で仕分けをするのは非常に難しいのですが、今回は「テンポよく進むもの」と、「しずかにゆっくりと進むもの」という対照的な2作を紹介します。
伊坂幸太郎「逆ソクラテス」(『逆ソクラテス』所収)
まずテンポよく進むものとしては、伊坂幸太郎さんの『逆ソクラテス』をおすすめします。
中学入試では数年にわたり、安定して出題されている
入試問題としては暁星中、成蹊中など数年にわたり安定して出題されています。伊坂さんの作品は全体的に言葉遊びを楽しむようなアップテンポのものが多いのですが、その中でも親子で楽しんでもらいたい作品です。
小川洋子「キリコさんの失敗」(『偶然の祝福』所収)
対照的なものとして、小川洋子さんをご紹介します。
小川さんの作品は物語の中で大きな起伏は少なく独特の世界観があります。『博士の愛した数式』は手に取ったことがある方も多いのではないでしょうか。
中学入試でも長きにわたって注目されている「キリコさんの失敗」
『偶然の祝福』の中の「キリコさんの失敗」は、近年、頌栄女子学院中、香蘭女学校中、雙葉中で出題されました。頌栄女子学院中で扱われたのが2013年、一番新しいのが雙葉中の2021年と長きにわたって先生方に注目されている作品です。
しかし、大人にとっては趣のある作品と思うようなものも、小学生にはなかなかわかりづらく面白いと思えないかもしれないものです。
ただ、短編であれば、そういったあいまいな結末や雰囲気を楽しむような作品も読んでみようと思えるのではないでしょうか。そんな「『読めた』という経験値」がきっと、子どもたちの糧になると思うのです。