物語を通して「言葉」を追いかける――はんだ浩恵『満月のとちゅう』

『ソラモリさんとわたし』の続編

今回取り上げるのは「言葉」を追いかける物語。

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2021年12月に刊行された『ソラモリさんとわたし』という作品の続編にあたります。前作を読んでいなくても楽しめる展開にはなっていますが、少しでも知っているとよりお話に入りやすいのではと思いご紹介します。

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自由なコピーライター「ソラモリさん」との出会い

小学6年生の美話はあまりお喋りが得意ではない、無口な女の子。そんな美話の秘密のメモ帳を拾ってくれたのは、大人なのに大人らしくない「ソラモリさん」という女性でした。

コピーライターをしている「ソラモリさん」は、自由人でちょっとだらしないところもあり、美話のイメージしているきちんとした大人ではないのですが、メモを拾ってもらったことをきっかけに夏休みを通して交流を深めていきます。

コピーライターという「言葉を仕事にする人」のプロの考え方に触れたことは、美話にとって言葉の世界に向き合うきっかけとなる、大切な「レッスン」となりました。そばにいる大人からこのような形で、興味ある分野に近づいていけるというのはとても幸せなことですよね。

ソラモリさん以外の人との関わりがほとんどないので、少しフィクションの要素を感じるかもしれませんが、その分、「人間関係が複雑な物語は読みにくい」という子にはおすすめの物語でもあります。

「美話」とともに言葉の世界を楽しんでほしい

続編である『満月のとちゅう』のプロローグは、美話が書いた童謡作詞コンテストの作品から始まります。このときは言葉を紡ぐことにまだまだ自覚的ではなかった美話が、小6の冬から中学生になるまでの第一部。そして中学生になって文芸部に入ってからの第二部。

「これは、わたしがひとつの道を見つけるまでのものがたりで、はじまりは……ジャンボチョコモナカの半分こ。」

物語の中に何度も登場する「ジャンボチョコモナカ」も良いアクセントになっています。美話とともに言葉の世界を楽しんでみてください。

最初のバス停でおりないこと

美話の小学校では、毎年、卒業の記念制作として子どもたちだけで作った手づくり絵本を児童館へ寄贈しています。 美話のチームは、絵が上手なチームメイトが話し合いに参加できない中、なんとかみんなで考え出したアイデアで乗り切ります。

こうしていっときはチームのみんなと完成した絵本を前に成功だと喜んでいたのですが、美話の心の中には「これでよかったのかな」という思いが湧いてきてしまいます。 もっとできたんじゃないか、もっとできたかもしれないのにやらなかっただけじゃないか、という思いを抱えたまま舞台は中学生へと移ります。

「言葉」を生み出すための苦しみ

中学では文芸部に入り、新しい先輩や同級生とともに創作に励み、「言葉」を産み出すための苦しみを体験する美話。

「アイデア行きのバスに乗ったら、すぐにおりないでって。次の停留所、その先の、もっと先の停留所まで行けば、もっといいものがあるかもしれないから。」

小学校での絵本作りで関わることになった、絵が上手な同級生「トショ」からもらった言葉を思い出しながら自分の作品に向き合います。

クリエイターが生み出す軽やかな言い回しを楽しんでほしい

作者のはんだ浩恵さんは、フリーのクリエイターとして、広告プランやネーミング、映画のキャッチコピーなどを手がけていらっしゃるとのこと。美話とソラモリさんの軽妙な掛け合いの中の言葉一つひとつも練られていて、テンポ良く、ウィットに富んでいます。

そして、なにかに一生懸命取り組んでいる人、取り組もうとしている人に届いてほしい言葉がたくさん散りばめられています。この作品ならではの、軽やかな独特の言い回しを楽しんで読んでみてください。

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最後に、「ひとつの道」をみつけた美話の言葉でもあり、この本を読む子どもたちにぜひ届いてほしいと思った言葉を引用して終わりたいと思います。

答えを急がないこと。
もしかしたら明日わかるかも、何年もあとかも。いつか見つかる。きっと見つける。

家族とは違う歳上の友人ソラモリさんや、同級生達との交流の距離感が心地よい読後感です。ぜひお手に取ってみてください。

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