入試問題を通して本と出会う
2024年度の入試も一段落し、塾では新年度の授業がはじまりました。今回は今年度の入試で取り上げられた本から、エッセイと詩の2冊を紹介したいと思います。
自ら手に取らない書き手の本であっても、問題の文の続きを読みたくなったり、思いがけない良い言葉に出会ったりと、入試問題には素敵な本との偶然の出会いが転がっています。入試問題を、「子どもたちが解くものだから大人には関係ない」と切り離してしまわずに一緒に読み、感想を話し合ってみてください。
くどうれいん『桃を煮るひと』
中学校の先生方が試験問題を作るのはだいたい夏から秋にかけてと言われますが、近年の傾向として、その年に刊行された新しい本を扱う学校が増えてきています。今回紹介する、くどうれいんさんの『桃を煮るひと』も、2023年06月刊行のエッセイ集で、関西の灘中(1日目)の読解の素材文として出題されました。詩人が紡ぐ「美味しいものへのこだわり」41篇
くどうさんの美味しいものへのこだわりが詰まった41篇が並んでおり、灘中で出題されたのは、「ぶどうあじあじ」という、焼き肉屋さんで帰りにもらったぶどう味のキャンディーにまつわるお話でした。こういった身の回りの小さな事柄を切り取って、そこから広がる豊かな言葉の世界は、くどうさんが詩人であることも関係あるのかもしれません。
食というものはその人の価値観が強くにじみ出るものの一つだと感じます。とても個人的なことが書かれているにもかかわらず、読む側が勝手に励まされてしまう感覚になるようなカラッとした明るさがあり、読んでいる間は心地の良いゆるやかな時間が流れます。
同著者の小説『氷柱の声』(芥川賞候補作)も出題歴あり
くどうさんは、エッセイだけでなく小説、歌集など多方面での執筆活動をされており、芥川賞候補作ともなった初の小説『氷柱の声』は、2022年度の麻布中、海城中(1回)の入試で同じ個所から出題されていたことが記憶に新しいです。
斉藤倫『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』
ひらがなが多めのやわらかい文章の中に、詩がぽつんぽつんと表れます。「ぼく」が勧める詩を、「きみ」と一緒に読み進めていくうちに 、この本一冊が大きな詩になっているようにも感じました。
「詩を読んでもよくわからない」「なにをいいたいのかわからない」
取り上げられている詩は様々で、一度ではすっと頭に入ってこないへんてこな言葉にたくさん出会います。読んだ詩の意味がわからず、「詩って、こんなでたらめ書いていいんだ」「いみがわかんない」という「きみ」に「いみが、わかったほうがいい?」と聞く「ぼく」。
子どもたちと詩の学習をする際によく聞くのが、「詩を読んでもよくわからない」「なにをいいたいのかわからない」 という言葉。詩をわかろう、理解しようと思えば思うほど、自分のわからなさに嫌になってしまう、大人でもそんな経験があるのではないでしょうか。
「こんな詩の楽しみ方がある」ことを知ってほしい
入試問題の出典となった、2章「いみなくない?」の中の言葉です。「きみ」の学校のテストの話を通して2人がわかる、わからない、という言葉についてやり取りをするのですが、わかる、わからない、の2択ではなく、それを読んでどう感じたか、自分の心の動きに向き合う方が大切なのだと気付かされます。
詩の解説書として書かれたわけではないけれど、詩を読みなれていない人が読むにはこういったほんの少しのヒントがあると楽しめますね。「詩集」というと構えてしまったり、詩に抵抗があったりする子には、ぜひこの本に出会い、こんな詩の楽しみ方があることを知ってほしいと思います。