6年生になると、経済について学習します。「お金」のお話です。
そこでは「円高・円安」についても解説をしますが、現在は2022年から始まった記録的な「円安」状態が続いています。ニュースなどでもよく話題になっているので、6年生以外の人でも聞いたことがあるでしょう。
でも、「円高・円安」とは何ですかね……すみません、またの機会に説明します。
円安によって増加する「インバウンド」
円安にはよい面とそうではない面がそれぞれありますが、円安になると海外から日本を訪れる観光客(インバウンド)が増える現象が見られます。コロナ禍以前には東京オリンピック・パラリンピックに向けて政府主導で日本にインバウンドを呼び込み、その数は年々増加傾向にありました。そして、2024年は過去最高だった2019年の水準を上回ると予測されるほど、インバウンドが増加しています(2019年:3,188万人⇒2024年予測:3,477万人)。
インバウンドが増えると、彼ら彼女らが日本でさまざまな消費活動をおこなうので、日本の経済には利点も多くあります。2023年のインバウンドの消費は約5.3兆円で、これは日本で2番目に人口が多い神奈川県の年間予算の約2倍に相当する金額です。
インバウンドによってもたらされる「オーバーツーリズム」の問題
一方で、観光名所などにはインバウンドが多数訪れることになるために混雑が激しくなり、ときには混乱が起こります。
ニュースでも話題になったことですが、山梨県富士河口湖町のコンビニエンスストアで起こったいわゆる「富士山、黒い幕事件」のように、観光客が殺到することで地域住民の生活に支障をきたす状況が各地で起こり始めています。
こうした状況は「オーバーツーリズム」(観光公害)と言われ、観光によって地元の経済が潤うのは喜ばしいのですが、そこで暮らしている人たちにとっては「普通の日常生活が送れない」というとても切実な問題になっています。
本格的に対策が講じられつつあるオーバーツーリズム
そのため、本格的に対策を取り始めた自治体や地域もあります。
例えば、京都市では観光客による混雑が激しすぎて地元住民がバスに乗ることができないという状況を改善するために、観光名所だけをつなぐ「急行バス」の運行を始めました。
また、導入時期は未定ではありますが、世界遺産「姫路城」がある姫路市は、姫路城への入場料についてインバウンドは4倍程度の値上げ、日本人観光客は値下げを検討していると発表しています。
中学入試で出題される「オーバーツーリズム」
中学入試の社会科の問題においても、オーバーツーリズムはよく取りあげられるようになっています。それも単なる知識を問うものではなく、「あなたならばどうしますか?」という出題も見られるようになっています。
例えば、2024年1月に実施された「栄東中学」の入試問題を紹介しましょう。
- 文章中の下線部について、(オーバーツーリズムが進むと)「地域住民の日常生活に支障が出る」という具体的な例を、「交通渋滞により、通勤・通学などの移動に時間がかかる」こと以外で一つ答えなさい。
- 「オーバーツーリズム」への対策として、観光税のように観光地域への入場料を有料にして観光客の増加による混雑を抑えようという案があります。「観光地域への入場を有料にする」こと以外で観光客の増加による混雑を和らげる方法を、考えて答えなさい。
いかがですか。答えが思い浮かぶでしょうか。
こうした問題は、日頃から問題意識をもって考えていれば対処ができますね。今回の解答を考えるうえで大切なことは、単純に規制する方向性に向かわないことです。インバウンドの増加には経済的な面で利点もあります。そうした利点もできるだけ残しつつ対策を考えることができますか?
世の中の動向、世界の情勢を意識する
上記の「オーバーツーリズム」のように、近年の中学入試では身近な話題を取り上げることが増えてきています。
例年、6年生は秋以降に時事問題を授業でも学習しますが、上記の出題のようなこともあるので、いまからでも世の中の動向、世界の情勢を意識して気にするようにしてほしいですね。
出題者側の意図
実際に、出題する中学校側もそれを求めています。
例えば、神奈川県にある男子校「聖光学院」では、自校のホームページに掲載している入試問題の解説資料において以下のコメントを発表しています。
- 「私たち教員は日々の授業や日常の出来事を素材として(作問し)、受験生(未来の聖光生)に入試問題を通じて最初のコミュニケーションをとっているのだと思います」(2023年公民分野)
- 「問題文や図のさまざまなヒントに気づきながら、学校の授業に限らず日常生活の中で学習、経験したであろうことがらを、つなぎ合わせる作業をこの紙面上でしてほしいと思っています」(2024年地理分野)。
受験生が忙しいことは充分に理解しています。「ニュースを見る時間も惜しい」というのが本音でしょう。また、5年生以下のみなさんは、まだそこまでの意識を持つことは難しいかもしれません。
中学入試の社会では「時事問題」の対策が欠かせない
しかし、社会に目を向けることは受験勉強にとどまらない重要性があります。「受験のために、勉強のために」となってしまうとニュースを見ることが義務になるので、負担感を覚えるのかもしれませんね。
ですが、自分たちが暮らす日本という社会の仕組み、現状を知り考えることは、中学入学後の自分にも問題意識として残り、自分の行動を変えていくことや自分なりのモノの見方につながるかもしれません。
もちろん、一人で黙々とニュースを見ることはやや非現実的ですので、できれば御家族の誰かと一緒に、一日5分でも良いのでニュースを見て、そのことについて会話をする習慣がつくと良いでしょう。
東京都知事選挙も始まりました。世の中のさまざまな事柄を、御家庭で話題に挙げてお話になってみてはいかがでしょうか。
- (例)観光客が捨てるゴミによって衛生面や景観が悪くなる。
- (例)観光地への入場を定員制や予約制にする。