素因数分解の利用【中学受験生が身につけておきたい「計算の工夫」②】

前回「計算問題」を処理する“工夫”についてお話ししました。今回はその計算問題でも利用する場面の多い「素因数分解」を扱います。

整数は「素数(素材となる数)」を合成する形で作られています(例えば $6 = 2\times3$、$18 = 2 \times 3 \times 3$)。全ての数の土台・もととして、算数・数学の世界でも必ず扱われます。

「素因数分解」は算数だけではなく、中学・高校数学の様々な場面で利用することになります。

素因数分解を利用して入試問題に解答する

以下の入試問題を例にとって見てみましょう。
せっかくなので、前回も一題取り上げましたが、今年度($2024$年度)の西暦を使った問題を紹介したいと思います。

2024年 栄東A(1/10) 大問3

$1$つの整数に対し、ある規則にしたがって約数を配置した図形をつくります。約数を配置した点を頂点と呼ぶことにします。例えば、$4$に対しては$4 = 2\times2$だから、図$1$のような頂点の個数が3個の直線がつくれます。$18$に対しては$18 = 2\times 3\times 3$だから、図$2$のような頂点の個数が$6$個の長方形がつくれます。$90$に対しては$90 = 2 \times 3\times 3\times 5$だから、図$3$のような頂点の個数が$12$個の直方体がつくれます。このとき、次の問いに答えなさい。

  1. 図4のアに入る数を答えなさい。
  2. $2024$に対してつくれる図形の頂点の個数は全部で何個になりますか。
  3. ある整数に対し頂点の個数が$8$個になる図形がつくれるとき、その整数として考えられる$150$以下の数は全部で何通りありますか。

 

(1)(2)の解説

(1)ア$= 2\times 2\times 3\times 5\times 5=300$

(2)図$1$~$4$でわかることは、頂点の個数が約数の個数となっていますよね。第9回「数の性質①」で取り上げた“素因数分解”を利用して約数の個数(=頂点の個数)を求めてみましょう。
$\begin{align*}2024&=2\times 2\times 2\times 11 \times 23\\
&=2^3 \times 11^1 \times 23^1\end{align*}$
より、$(3 + 1) \times (1 + 1) \times (1 + 1)=16 $(個)

 

(3)の解説

(3)約数の個数($=$頂点の個数)が$8$個ということですね。
したがって、以下の$3$パターンが考えられます。

  • 素数$\rm{a}^7$⇒$2^7 = 128$
  • 素数$\rm{a}^1 \times$素数$\rm{b}^3$⇒
    $3^1 \times 2^3 = 24$、$5^1 \times 2^3 = 40$、$7^1 \times 2^3 =56$、$11^1 \times 2^3 = 88$、$13^1 \times 2^3 = 104$、$17^1 \times 2^3 = 136$、$2^1 \times 3^3 = 54$、$5^1 \times 3^3 = 135$
  • 素数$\rm{a}^1 \times$素数$\rm{b}^1 \times$素数$\rm{c}^1$⇒
    $2^1 \times 3^1 \times 5^1 =30$、$2^1 \times 3^1 \times 7^1 =42$、$2^1 \times 3^1 \times 11^1 = 66$、$2^1 \times  3^1 \times 13^1 = 78$、$2^1 \times  3^1 \times 17^1 =102$、$2^1 \times 3^1 \times 19^1 = 114$、$2^1 \times 3^1 \times 23^1 = 138$、$2^1 \times 5^1 \times 7^1 =70$、$2^1 \times 5^1 \times 11^1 =110$、$2^1 \times 5^1 \times 13^1 = 130$、$3^1 \times 5^1 \times 7^1 = 105$

よって、$20$通り

素因数分解をを利用して効率よく解答する

以下の問題では“素因数分解”を意識せずとも解答まで至りますが、“素因数分解”を利用してみると問題の設定条件(できるだけ使う数字の個数が少なくなるようにしなさい)に大きく近づきます。

2024年 開成 大問1(1)

数字$1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9$と四則演算の記号$+, -, \times, \div$とカッコだけを用いて$2024$を作る式を$1$つ書きなさい。ただし、次の指示に従うこと。

    1. 1つの数字を2個以上使ってはいけません。
    2. 2個以上の数字を並べて2けた以上の数を作ってはいけません。
    3. できるだけ使う数字の個数が少なくなるようにしなさい。(使う数字の個数が少ない答えほど、高い得点を与えます。)

 

たとえば、$10$を作る場合だと、

  • $5 + 5$や$(7 - 2) \times 2$は、①に反するので認められません。
  • $1$と$5$を並べて$15$を作り、$15 - 2 - 3$とするのは、②に反するので認められません。
  • ③の指示から、$2 \times 5$、$2 \times (1 + 4)$、$4 \div 2 + 3 + 5$のうちでは、使う数字の個数が最も少ない$2 \times 5$の得点が最も高く、数字$3$個の$2 \times (1 + 4)$、数字$4$個の$4 \div 2 + 3 + 5$の順に得点が下がります。

解説

$2024=2^3 \times 11×23$
このうち$11$と$23$はともに素数なので、$1$~$9$から選んだ数を単にかけ合わせても$2024$を作ることはできません。$2024$を作る式の中に「$+$」か「$-$」が$1$個はなければ不可能です。この考えをもとにして$2024$を作ったとしても、最大で$(6 + 7) \times 8 \times 9 = 936$にしかなりません。したがって、使う数字は最低でも全部で$5$つです。ただやみくもに試行することに比べ、一気に高得点がもらえる解答に近づきましたね。

答え(例) $(1 + 4 \times 7 \times 9)\times 8$

今回の問題例では西暦の数($2024$)を扱う問題を取り上げました。もちろん“素因数分解”を利用する問題はこういったものだけではありません。一見すると単純な作業に見えますが、「数の性質」の単元では大きな意味を持ちます。

“約数の個数や和”“最大公約数・最小公倍数を求める問題”など、様々な場面で“素因数分解”を活用し、技術のみならずその意味をしっかりとつかんでほしいと思います。

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