
気持ち新たに読書環境・読書習慣を
新しい年が始まって1ヶ月が経ちました。
こちらのコラムでは、今年も中学受験を考えるご家庭が良書に出会い、本をきっかけに新しい世界が広がっていくことを願い、幅広く本をご紹介していきます。
多感な時期に多様な本に触れることは人生を豊かにしてくれる
よく、「本を読めば国語が得意になりますか?」と質問を受けることがありますが、私は読書と読解力は直結するものではないと考えています。それでも、多感な子どもの時期に色々なジャンルの本に触れ、心と言葉を豊かにすることは必ず人生を豊かにしてくれます。
本を読んでほしいと思っても、自分から本を手に取らない子どもに「本を読みなさい」と声掛けするだけではなかなかよい読書習慣はつきません。親が読んでいるところを見せたり、自然と手に取れる場所に本を常に置くようにしたり、今年はぜひ読書環境を豊かにし、読むことのハードルを低くするところから始めてみてはいかがでしょうか。
本屋大賞の1位となり大注目されました
2025年に最初に紹介するのは、2024年度の豊島岡女子中、栄東中など、難関校の入試問題でも取り上げられた宮島未奈さんの小説、「成瀬は天下を取りにいく」です。読んだことがない方も、本屋さんで平積みにされているのを見たことがあるかもしれません。
2024年4月に本屋大賞で1位を取ったことで人気が上昇し、続編の「成瀬は信じた道を行く」も合わせて話題になったベストセラー作品です。 中学入試で取り上げられる本は子ども向けに書かれたものばかりではありません。こういった話題作になるようなエンタメ本は息抜きにぴったりですし、大人が手に取り、読んだ上で手渡すと子どもも読み始めやすいと思いますので親子読書におすすめです。
ファンを作る魅力的な主人公
本作は滋賀県大津市の中学生、成瀬あかりが主人公です。超能力のような特別な力を持っているスーパーヒロインではありませんが、ほとんどの人がやろうかなと思いながらも通り過ぎてしまうようなことに真剣に取り組み、やると決めたことは最後までやり抜きます。
第三者の目を通して語られる数々のエピソード
主人公の目線で描かれるのではなく、第三者の目を通して語られる数々のエピソード。周囲の人たちは成瀬の予想外の行動に始終振り回されるのですが、本人はいたって飄々としています。
卒業文集に書いた将来の夢は「200歳まで生きる」というもので、そのために毎日のジョギングは欠かしません。けん玉は名人級、自ら坊主にして髪の伸び方の長期実験に取り組み、自分が住む大津市の市民憲章は暗記して全うする。
聞けば聞くほど頭にハテナが浮かびますが、いろいろな目線からの成瀬が描かれることで、「おかしなことをする変わった主人公」だった成瀬がだんだん立体的になり、人間味を増してきます。
印象的なセリフから始まる本編
2020年、成瀬が中2の夏休みの始まりに幼馴染の島崎に宣言したこのセリフから本編がはじまります。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、テレビ中継に映りこむというのです。幼いころから親しんだ西武デパートへの彼女なりの気持ちの表れなのですが、初めは傍観者だった島崎もいつのまにか成瀬のペースに巻き込まれていきます。
さまざまな魅力を兼ね備えた、ファンを作り出す主人公「成瀬」
自分の中に成瀬と重ねられるところを持っている人、ずっと成瀬みたいになりたかった人 、どうやったってあんな風にはなれないよと思う人も虜にしてしまう成瀬の魅力。パワフルでまっすぐで、自分軸で動くけれど、肝心なところでは相手の気持ちを考えられる優しさや心の余裕を兼ね備えた成瀬は、ファンを作りだす主人公だなと思います。
世代を問わず読まれるからこそのベストセラー
強すぎるくらいの地元愛があふれ出ているところも、本作を楽しく読めるポイントの一つです。滋賀県大津市の膳所という場所が舞台、琵琶湖の観光船である「ミシガン」や地元密着のスーパー「平和堂」など実在する地域の固有名詞が次々と出てきます。
ともすれば内輪感ばかり出てしまいがちな地元ネタですが、むしろ滋賀に土地勘がないことを残念に感じるほど。そして地元あるあるの要素がわからなくても楽しめてしまうのはやはりキャラクターのおかげ。ただの痛快な青春物語ではなく、島崎との関係の変化や成瀬がふと見せる本音にほろりとくる場面もあります。
「成瀬と友だちになりたい!」
この本を読んで、これから新しいことにチャレンジする勇気をもらった、自分の生き方を見直すきっかけになったという大人の方のレビューを多く見かけましたが、子どもたちからは「成瀬と友だちになりたい!」という声が多数。
世代を問わずに受け入れられ、笑いの中にも元気をもらえる作品です。たとえ目標に届かなくても落ち込まず諦めず、何事にも本気で取り組む成瀬の姿勢に共感し、読む人の背中をそっと押してくれる一冊となっています。