“根本”を説明せよ! 解法テクニック丸暗記からの脱却

現在、中学受験を目指すお子様方は小学校4年生(塾のカリキュラムを考えると小学校3年生の2月)から受験勉強をスタートする方が一般的となっています。その良いスタートを切らせるためか、さらに低学年から様々な学習に対する習い事(受験塾における低学年コースも含む)を始められるご家庭も多いのではないでしょうか。

その学習の中では多くの問題を解き、様々な知識を吸収することでしょう。“~算はこの図を利用せよ!”“こういう形にはこの補助線を引け!”といったようなテクニックもたくさん習う(習った)ことと思います。

近年増加しつつある「記述解答」方式

確かにそういった解法テクニックも必要です。しかしながら昨今の中学入試(高校入試・大学入試も)においては、どうも様子が違います。以前から“考え方・式”を書かせる記述解答方式の学校は、難関校を中心に存在していました。今では部分的に記述解答方式となっている学校も、レベルにかかわらず増加しており、今後もますます増えることでしょう。

2022年 早稲田実業 大問2(2)

ある算数の問題を、A君は次のように解きました。

(問)$5$時から$6$時の間で、時計の長針と短針のつくる角が直角になるのは$2$回あります。$1$回目は$5$時何分ですか。

(式)$60 \times \frac{2}{11} = 10\frac{10}{11}$

(答)$5$時$10 \frac{10}{11}$分

A君のたてた(式)の中の「$60$」と「$\times \frac{2}{11}$」がそれぞれ何を意味しているのかがわかるように、(式)の説明をしなさい。

そのような中で上記のような、内容上はごくごく基本で問題難度としては高いわけではありませんが、“物事の「基礎・基本(根本)」をきちんと理解できているか”、はたまた“他者にきちんと説明できるか”を問う記述解答方式も増加傾向にあります。

その他“周の長さが等しい正方形と円の面積はどちらが大きいかとその理由”、“面積を二等分する補助線の記入とその理由”、“円の直径を一辺とし、もう一点が円周上にある三角形は直角三角形となる理由”といった出題等、内容も多岐にわたります。

今でも“伝説の問題”として語られる2003年東大入試

ここで過去の「東大入試」をご紹介しましょう。

2003年 東京大学(理系) 大問6

円周率が$3.05$より大きいことを証明せよ。

当時「学習指導要領」の改訂にともない、小学校の教科書において“円周率3”を使用したり、“台形”の面積の求め方がなくなったりしたのを覚えている方も多いと思います(「ゆとり教育」なんてよばれましたね)。

そういったことに対する最高学府からの問題提起とも受け取れるこの入試問題は、当時大きな話題となり、今でも“伝説の問題”として語られています。

定義の理解やその証明など、きちんと学習していく姿勢の大切さ

もちろんそういったメッセージもこめられていたことでしょう。しかしながら、やはり解法暗記やパターン学習に偏りがちな受験対策ではなく、定義の理解やその証明などきちんと学習していく姿勢の大切さを問うているのだと思います。

中学受験においても、以前のようなテクニックに偏りがちの問題から、思考力・表現力重視の問題へ変わりつつあります。

理屈・根本の理解をともなった論理的な思考・説明をする習慣

最初の話へ戻りましょう。

小学校3・4年生(それよりも前)から受験に対する学習を進める中で、いや5・6年生になっても、公式・解法テクニック暗記の学習だけではなく、理屈・根本の理解をともなった論理的な思考・説明をする習慣を是非身につけてほしいと思います。

そのためにはご家族の方も、勉強させる・点数評価するだけではなく、“会話する”“質問に付き合う”“理由を聞く”といった時間を取ってあげてほしいと思います。

冒頭の問題の解説

それでは今回の早稲田実業の問題です。

中学受験をするお子様にとっては、誰もが経験する「時計算」の基本問題です。もしこれが(問)のみであれば、多くのお子様が正解することでしょう(ましてや早稲田実業であればなおさらです)。

しかしながら「$60$」や「$\times \frac{2}{11}$」と計算することの意味をきちんと理解しているか(ややもすると意味を理解することなしに公式的に処理してしまいがち)だけではなく、それを相手に説明できるかまでを求めています。

2022年 早稲田実業 大問2(2)解答例

$5$時の長針と短針の作る角は$150^\circ$、そこから1回目の直角$90^\circ$までに長針と短針の動く角度の差が$60^\circ$、$1$分間に動く角度は長針が$6^\circ$、短針が$0.5^\circ$なので、$1$分間に動く角度の差は$6 - 0.5 = 5.5^\circ$
よって、$60^\circ$の差になるのは$60 \div 5.5 = 60 \div \frac{11}{2} =60 \times \frac{2}{11} = 10 \frac{10}{11}$ (分後)

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