2025年度の最注目作品を紹介
前回は物語文のジャンルに焦点を当てましたが、今回は2025年度の入試で注目された説明的文章を取り上げてみたいと思います。
中学受験で出題される文章テーマは多岐に渡り、コミュニケーション、言語学、環境問題、最近はAIや哲学など、読みながら考えさせられるようなテーマが好まれる傾向にあります。文章のボリュームは平均して４０００字ほど。文庫本にして１０ページ近くの量を集中して読み切るだけの体力、気力も必要です。
「ただ本を与えるだけ」ではいけない
このように聞くと早くからこういった本を読ませなければと気が逸るかもしれませんが、気を付けなければいけないのが、ただ本を与えるだけではいけないというところです。文学的文章とは異なり、子どもが一人で読み進めることが難しい本がほとんどで、入試問題として一部が切り取られているからこそ向き合えるともいえるのです。
そのような中でも、今年の入試に出題された本の中から、ぜひ親子で触れてみてほしい１冊をご紹介します。
中屋敷均『わからない世界と向き合うために』
鷗友学園、市川、共立女子、高輪、桐蔭、山脇、立教女学院、甲陽学院、など17校
『わからない世界と向き合うために』は、２０２４年２月に筑摩書房からちくまプリマ―新書の１冊として刊行されました。 生物学者である中屋敷さんが、予測もコントロールも難しく、自分の思い通りにはならないこの世界にどう向き合っていくかについてを語る、メッセージ性の強いエッセイです。
2025年度の受験では、なんと17校で出題され、非常に注目を集めました。
どんな物事にもリスクはつきもので、リスクのない選択をしたいと思うようになると何も選べなくなってしまいます。自分で選択した選択をベストにするよう生きていく覚悟が必要であると説き、その心構えは生物学の目線も交えて、筆者のエピソードと共に語られます。
「嘘をつくこと」と「生きる姿勢」
例えば、嘘をつくことがいけないのはなぜかという問いについても、生きる姿勢と関わってくるものとして説明されます。
嘘をつくという行為は、人生の中で否が応でも出会ってしまう、向き合うべき困難や苦しさから逃れてしまうことと根が同じだと話します。
学校の先生たちからのメッセージとして受け止めて
不確定なことばかりの「わからない世界」に生きることを怖がらず、他者に選択を委ねないこと。自分の判断をベストにできるかは自分次第ですよ、とこれから中学生になる子どもたちへ、各学校の先生方から本を通してメッセージが送られたように感じました。
未知のものに対する不安を抱えるすべての人々に向けた、前向きな指南書です。
部分読み・読み聞かせ・出題箇所の読み比べ
手に取ってみて、通して読むのが難しいと感じるようでしたら、部分読みでも読み聞かせでも構いません。もうしばらくすると過去問題集として実際の入試問題も目にすることができると思いますので、各学校で出題された箇所を読み比べてみるのもよいかもしれませんね。
「ちくまプリマ―新書」は新刊をチェック
今回ご紹介した本の出版元である「ちくまプリマ―新書」は、国語の入試問題でよく扱われるレーベルです。最近は子ども向けに、難しいテーマに親しみやすい本のレーベルも多く出ているのですが、やはりこちらは外せません。
「プリマー＝入門」の名の通りの入門書シリーズ
「プリマー＝入門」という言葉の通り、中高生や一般向けに分かりやすく書かれた入門書シリーズで、必ずしも学生向けとは限らず、専門的なテーマを平易な言葉で解説しているのが特徴です。
哲学、科学、社会、文学など幅広い分野を扱い、著者は研究者や作家が多く、学問の面白さを伝えることに重点を置いていることから、語りかける口調のものにも多く出会います。 筆者が伝えたいことが明快に書かれ、具体例と抽象的な議論のバランスが取れている文章は、論理的に読み取ることができる力を試しやすいのでしょう。
中学以降にも触れていくような文章が入試問題の題材に
中学校の先生方は、中学入試の問題を通して、難しすぎず、でも単純ではない、中学以降にも触れていくような文章を題材に、小学生の時点でどれだけ向き合うことができるのかを試しているように思います。
親子で書店の棚を眺め、興味のあるタイトルを選んだり、平積みされている新刊をチェックしたり、とまずは本に目を向けるところから始めてみてはいかがでしょうか。
