俳句って難しい?
暑さ寒さも彼岸までという通り、春の穏やかな空気を感じられるようになってまいりました。今回は「俳句」をテーマにした本を取り上げます。
俳句に対してどんな印象をお持ちでしょうか?学校の国語の授業や受験勉強の中で、有名な句については触れたことがあるものの、自分で作ってみようと思ったことがある方は少ないと思います。
まったく俳句に馴染みのない読者でも、右も左もわからない状態で吟行したり、推敲したりする主人公と体験を重ねていくうちに、俳句ってこうやって作るんだ! と自分でも作りたくなってしまうのではないでしょうか。
初めての句会の雰囲気も楽しそうに書かれています。空良が一句読むごとに、たった十七音でもこんなに多くのことを語れるのか、こうやって気持ちを相手に届けるというやりかたもあるのか、と言葉の力を感じます。
心の中にある自分の「うじ虫」に向き合い、だんだんと心を解き放っていく空良の姿
本の中で、俳句初心者の空良を助けてくれるのは文芸部の先輩の存在です。 空良が見たチラシに書いてあったのはこんな言葉。
「しゃべりは苦手でもペンを持ったら本音をぶちまけられる者よ!文芸部に入るべし。」
森埜こみち『わたしの空と五・七・五』
文芸部の谷崎先輩の言葉ですが、どうしてみんな本音を言わないのか、という問いに対して、「みんな、腹の中にうじ虫をかっているのだ」と説明します。「うつくしい物語って、うつくしい成分からできているわけじゃない。うじ虫からできているのよ。うじ虫!」
なかなか強烈な言葉ですが、空良が心の中にある自分の「うじ虫」から逃げずに向き合い、俳句の言葉に乗せてだんだんと心を解き放っていく様子は、自然と応援したくなります。
ほんわかとしたストーリーの中で起こる「事件」
そして、ほんわかとしたストーリーの中にも、事件が起こります。同じクラスの颯太が、部活の先輩とトラブルになっているのを見た空良は、自分からなんとかしようと動くのですが、、、楽しいことばかりではない学校生活、どうなってしまうのかな、と解決までの流れは読み応えがあります。
春という季節を感じて
四季のある日本では、昔から季節の移り変わりを敏感に感じ取り、色々な言葉で表し、愛でてきました。俳句に詠み込まれる「季語」もその一つです。この本の季節は春。
春は動き、変化の多い季節です。生き物たちが活動をはじめ、卒業や入学など節目の出来事があって取り巻く環境が変わることも多いのではと思います。
主人公の空良は無理をして人に合わせようとはしていません。それでも、言葉にすることで自分の気持ちの整理ができたり、言葉にしないと思いは伝わらないなと感じたり、主人公といっしょに学校生活を楽しんでほしいです。新学期の訪れと共に読む本としてもおすすめしたい1冊です。
俳句の本いろいろ
俳句、ちょっと面白いかもしれないなと思った方は、ぜひこちらも手に取ってみてください。
高柳克弘『そらの言葉がふってくる』
いじめをきっかけに毎日、保健室で過ごすようになったソラ。俳句が大好きなハセオに出会い、短い言葉の中に想いを込める楽しさを知っていきます。保健室での俳句会を通して、周りとの関係や自分自身が変わっていくのを感じる主人公。2022年の中学入試、桜蔭で出典となった部分は、ソラに俳句を教えてくれたハセオとの心のすれ違いの1シーン。作者の高柳克弘さんが俳人ということもあり、出てくる俳句や言葉が洗練されていて素敵です。
こまつあやこ『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』
2019年の中学入試頻出となったこの物語は、日本の中学校に通うことになったマレーシアからの帰国子女の女の子が主人公です。タイトルは、マレーシア語での「五・七・五・七・七」で、作中に出てくる短歌にもマレーシア語が読み込まれます。主人公はなんとか学校になじもうとする中で短歌に出会い、少しずつ日常が変化していきます。中学生ならではの先輩へのあこがれ、淡い恋心、もどかしさも織り交ぜながら、異文化の理解や多様性についても考えさせられる、読後感さわやかな物語です。
堀直子『俳句ガール』
低学年向けにはこちらをお薦めします。主人公は小学4年生の女の子、つむぎ。挿絵が入っていて行間も広く、安心して読める流れの成長物語です。季語など難しく考えず、心情を表す手段としての俳句が書かれています。同級生の俳句男子の言葉が素敵だったので引用しておきます。
「心の動きっていうか、そんなのが、あんなみじかい五・七・五のなかで表現できたらさいこうじゃねえの」
堀直子『俳句ガール』
この本が俳句に触れるきっかけになるといいなと思います。